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1.はじめに
米国特許商標庁(USPTO)は、2019年10月17日、特許適格性ガイダンスの更新版(October 2019 Patent Eligibility Guidance Update)(以下、October 2019 Update)をホームページ上で発表しました。
October 2019 Updateは、2019年1月7日に発表した、2019年特許適格性改訂ガイダンス(2019 Revised Patent Subject Matter Eligibility Guidance)(以下、2019 PEG)の更新版です。ただし、October 2019 Updateは、2019 PEGで示された特許適格性の審査手続を実質的に変更するものではなく、その審査手続を明確にしたものです。
例えば、October 2019 Updateでは、2019 PEGで列挙された抽象的アイデアにおける各グループ(A.数学的概念、B.人間の活動を組織化する一定の方法、C.思考プロセス)の意味や具体例(ステップ2AのProng1)、法的例外が実用的応用へ統合されるか否かを評価する評価方法(ステップ2AのProng2)などが示されております。具体的には、以下の5つの分割セクションに分けて説明されています。
(Ⅰ) クレームが法的例外を記載しているか否かの評価
(Ⅱ) 2019 PEGで列挙された抽象的アイデアのグループ
(Ⅲ) 法的例外が実用的応用へ統合されるか否かの評価
(Ⅳ) 特許適格性拒絶に関する一応の証拠(prima facie case)と証拠の役割
(Ⅴ) 特許審査官における2019PEGの応用
このようなガイダンスには、法的効果はありません。したがって、訴訟段階においては、2019 PEGもOctober 2019 Updateもいずれも規範にはなりえません。
しかし、このようなガイダンスが公表されることによって、Andrei Iancu USPTO長官が述べているように、予測可能性を確保することができると思われます。例えば、特許出願前では、どのようなクレームを作成し、どのような出願明細書を作成していけば、101条拒絶を回避できるのか、また、特許出願後の審査段階では、どのようにクレームを補正すれば特許になるのか、などの指針を与えるものである、と考えることができると思います。
以下に、October 2019 Updateの概要を記載しました。
文責:弁理士 山下 聡
2.October 2019 Updateの概要
Ⅰ. クレームが法的例外を記載しているか否かの評価
A. "Recites(記載する)”の意味
法的例外がクレームにおいて”明らかになる”(set forth)又は”記述される”(described)ときに、クレームは法的例外を記載(recites)する。
特許審査官は、クレームが法的例外を記載するか否かを決定する際に、以下を行うべきである。
● 2019 PEGにおける審査官指示書に従って、クレームにおける抽象的アイデアを明らかにする又は記述する
か否かを決定するために、クレームを評価すること、
● 明らかに異なる特性分析を含む、MPEP2106.4(b)及び(c)における上記ガイダンスに従って、クレームにお
ける自然現象を明らかにする又は記述するか否かを決定するために、クレームを評価すること、
● MEPE2106.04(b)における上記ガイダンスに従って、自然の産物(a product of nature)以外の自然法則や
自然現象を明らかにする又は記述するか否かを決定するために、クレームを評価すること。
B. クレームに記載された多数の例外
あるクレームで、例えば、第1の限定が自然法則を記述し、第2の限定が抽象的アイデアを記述する場合、MPEP 2106.5(Ⅱ)における現在のガイダンスに従い続けるべきである。
Ⅱ. 2019 PEGで列挙された抽象的アイデアのグループ
A. 数学的概念
2019 PEGでは、”数学的概念”を、数学的関係(mathematical relationships)、数式若しくは方程式(mathematical formulas or equations)、又は数学的計算(mathematical calculations)と定義している。
ⅰ. ”数学的関係”
数学的関係は、変数や数字間の関係である。クレームに記載された数学的関係の例としては以下が含まれる。
● 反応速度と気温との関係で、その関係は、Diamond v. Diehrにおいて、アレニウスの式と呼ばれる数
式で表現される。
● BCD符号と純二進数との変換、Gottschalk v. Benson、及び
● 指向性のある放射能とアンテナ導体配置との数学的関係(すなわち、動作波長に関する導体の長さと導体
間の角度)、Mackay Radio & Tel. Co. v. Radio Corp. of Am.
ⅱ.”数式又は方程式”
数が現れた式や統合を記載するクレームは、”数学的概念”グループに該当するだろう。クレームに記載された数式や方程式の例として、以下が含まれる。
● アレニウスの式、Diamond v. Diehr
● 警報限界を計算する式、Parker v. Flook
● リスク回避のための数式(クレーム4)、Bilski v. Kappos
Ⅲ.”数学的計算”
数学的計算は、(乗算のような)数学的演算、或いは、冪算のように数値演算を実行するなど、変数や数を決定するために数式的方法を用いて計算する行為である。クレームには、数学的計算を考慮するために”計算する”という用語を記載する必要はない。クレームに記載された数学的計算の例として、以下が含まれる。
● リサンプルされた統計分析を実行して、リサンプルされた分布を生成すること、SAP Am, Inc. v. Invest Pi
c, LLC
● 数式"B1=B0(1.0-F)+PVL(F)"を用いて警報限界を表現する数値を計算すること、Parker v. Flook
● 数式を用いて地理的空間座標を自然数へ変換すること、Burnett v. Panasonic Corp.
B.人間の活動を組織化する一定の方法
”人間の活動を組織化する一定の方法”グループの範囲について説明が要求された。とくに、基本的経済実務や経済原則(fundamental economic practices or principles)、商業的又は法的相互作用(commercial or legal interactions)、個人の行動、人間関係、人的相互作用を管理すること(managing personal behavior or relationships or interactions between peple)の例が要求された。
ⅰ. ”基本的経済実務又は経済原則”
2019 PEGによれば、”基本的経済実務又は経済原則”は、リスク回避、保険、リスク軽減を含む。MPEP 2106.04(a)(2)(Ⅰ)は、”基本的経済原則又は経済実務”の例を提供する。”基本的経済実務又は経済原則”に関する追加例は、このMEPEのセクションでは記載されていないが、以下を含む。
● 遠隔的な買い物の支払いに関するローカル処理、Inventor Holdings, LLC v. Bed Bath & Beyond, Inc
● メールオブジェクト、すなわち、送信者、受信者、及びメールオブジェクトの内容、についての情報を通
知するためにメールオブジェクトの外部に添付されたマークを用いること、Secured Mail Solutions LLC.
v. Universal Wild, Inc.
● 表示されたマーケット情報に基づいて注文すること、Trading Technologyies Int'l, Inc. v. IBG LLC
ⅱ.”商業的又は法的相互作用”
2019 EPGによれば、”商業的相互作用”又は”法的相互作用”は、契約、法的債務、広告、市場活動又は販売活動、若しくはその行動、及びビジネス関係の形態における合意に関連する主題を含む。商業的又は法的相互作用が契約形態での合意である主題の例として、以下を含む。
● 契約上の関係である取引履行保証、buySAFE, Inc. v. Google, Inc
● 保険証券における範囲内の損失や保険事故に対する保険請求の処理(すなわち、契約形態の同意)、Acce
ture Global Services GmbH v. Gidewire Software, Inc
商業的又は法的相互作用が法的債務となる主題の例としては、以下を含む。
● 不動産に関する免税交換であって、交換が法的債務であること、Fort Properties. Inc. v. Americam Maste
r Lease LLC, 及び
● 仲裁(すなわち、仲裁を用いて当事者間の法的訴訟を解決すること)、In re Comiskey.
商業的又は法的相互作用が広告、マーケティング、販売の各活動や各行動となる主題の例は以下を含む。
● 広告を取引や通貨として利用すること、Ultramercial, Inc. v. Hulu, LLC,
● マーケティングに関係する申出ベースの価格適正化、OIP Techs, Inc. v. Amazon.com, Inc, 及び
● マーケティングや販売活動、又はその行動に関係する営業職員やマーケティング会社の構築、In re Feygu
san.
商業的又は法的相互作用がビジネス関係となる主題の例として、以下を含む。
● 購入者と販売車との間の借入申込書に対する処理であって、車両販売間における購入者と販売車との関係
となっているもの、Credit Acceptance Corp. v. Westlake Services, 及び
● 交換機関を介した情報処理であって、借入申込書を処理する際に、借入申込書に同意した当事者(例え
ば、カーディーラー)と資金調達源(例えば銀行)との間の関係となっているもの、Dealertrack v. Hube
r.
ⅲ.”個人の行動、人間関係、人的相互作用を管理すること”
2019 PEGによれば、”個人の行動、人間関係、人的相互作用”は、社会活動、授業、及び規則や指示に従うことを含む。これらのサブグループは以下のような主題が含まれる。
● サイコロゲームをプレイする規則の集合、In re Marco Guildnaar Holding B.V.,
● 投票すること、投票を検証すること、及び集計のため投票に服従すること、Voter Verified, Inc v. Election Systems & Software LLC,
● 頭部の形状を保つために髪型を選定すること、In re Brown, 及び
● リスクの回避のさせ方に関する一連の指示、Bilski v. Kappos.
C.思考プロセス
2019 PEGによれば、”思考プロセス”グループは、人間の心の中で行われる概念として定義され、思考プロセスの例には、観察、評価、判断、及び意見が含まれる。審査官は、本評価を行う際、以下の点を心に銘じるべきである。
ⅰ.人間の心の中で実際に行うことができない限定を伴うクレームは思考プロセスを記載しない。
以下に示す例は、人間の心の中で実際に行うことができないため、クレームは思考プロセスを記載しない。
● GPS受信器の絶対時間と衛星信号の絶対受信時刻とを計算する方法のクレームであって、クレームされた
GPS受信器は、受信器から複数の衛星までの距離を評価する疑似距離を計算すること、SiRF Technology,
Inc. v. International Trade Commission,
● ネットワークモニタを用いて不審な行動を検出し、ネットワークパケットを分析するクレーム、SRI Int'l,
Inc. v. Cisco Systems, Inc,
● 複数段の操作を含むコンピュータ通信用の特定データ暗号化方法に対するクレーム、Synopsys, Inc. v. Me
ntor Graphics Corp. (TQP Development, LLC. v. Intuit Inc.におけるクレームと区別すること)、及び
● ブルーノイズマスクに対してデジタル画像を画素単位で比較することで、デジタル画像の中間調画像を描
画する方法に対するクレームであって、その方法には、コンピュータデータ構造に対する操作(例えば、
デジタル画像の画素とマスクとして既知の2次元配列)と、修正されたコンピュータデータ構造の出力
(例えば、中間調デジタル画像)とを必要とするもの、Research Corp. Techs. v. Microsoft Corp.
これに対して、例えば、観察、評価、判断、そして意見を含む、人間の心の中で実際に行うことができる限定を含むクレームは、思考プロセスを記載する。
● ”情報を収集し、それを分析し、そしてその結果を表示すること”に対するクレームであって、データ分析
ステップに関し、そのステップが実際に人間の心の中で行われるような高度に一般化して記載されてい
る、Electric Power Group, LLC v. Alstorm, S.A,
● ”BRCA系列を比較し、異常の存在を検出”クレームであって、そのクレームは、比較ステップが実際に人
間の心の中で行うようにしてBRCA配列の比較を行う方法をカバーする、University of Utah Research Fo
undation v. Ambry Genetics Corp,
● 既知の情報を修正し比較するクレーム(クレーム1)であって、実際に人間の心の中で行われるステップ
、Classen Immunotherapies, Inc . v. Biogen IDEC, 及び
● 頭部形状を識別し、髪型を選定するクレームであって、実際に人間の心の中で行われるプロセス、In re Br
own
ⅱ.コンピュータを要求するクレームは思考プロセスのままであるかもしれない
たとえ、コンピュータ上で実行されるものがクレームされていたとしても、そのようなクレームは思考プロセスを記載することができる。例として、審査官は、明細書をレビューして、クレームされた発明が人間の心の中で行われる概念として記述され、かつ、出願人が、1)汎用コンピュータ上の、2)コンピュータ環境において、概念が実行されることを単にクレームし、若しくは、3)概念を実行する道具としてコンピュータを単に用いていることを単にクレームしている、か否かを決定する。このような場合、クレームは、思考プロセスを記載するものとして考えられる。
ⅲ.ペンと紙で精神的にステップを実行する人間を含むクレームは思考プロセスを記載する
人間の心の中で実際に行われる限定をクレームが記載する場合、その限定は、思考プロセスグループに該当し、そのクレームは抽象的アイデアを記載する。
D.仮の抽象的アイデア手続
2019 PEGは、仮の抽象的アイデアをハンドリングする手続を明らかにした。
Ⅲ.法的例外が実用的応用へ統合されるか否かの評価
A. 実用的応用への統合
クレーム限定の特殊性は、特定の装置の使用、特定の変換、そして、限定が例外を適用するための単なる指示であるか否か、などを含む幾つかの事情の評価(evaluation of several considerations)に関連している。仮に、クレームが、これらの事情の評価に基づいて、法的例外を実用的応用へ統合するのであれば、付加的限定は、法的例外上の意味的限界を負担し、クレームは、ステップ2Aで特許適格性があるとされる。
例えば、付加的限定が、コンピュータ機能の改善、若しくは他の技術や技術分野における改善を反映するのであれば、クレームは、法的例外を実用的応用へ統合し、法的例外上の意味的限界を負担する。この場合、更なる分析は必要ではない。クレームはステップ2Aで特許適格性があるとされる。例えば、SRI international, Inc, v. Cisco Systems, Inc事件において、裁判所が判示したことは、クレームが記載しているのは、複数のネットワークモニタを用いて特定のネットワークトラフィックデータを分析し、モニタから生成されたレポートを統合して、コンピュータネットワーク技術における改善を構成するネットワーク上でハッカーや侵入者を識別することができる、ということである。クレームは技術を改善しているため、クレームは法的例外上の意味的限界を負担し、クレームは全体として、2019 PEGの少なくともステップ2AのProng2において、特許適格性があるとされるだろう。反対に、コンピュータ部品を記載する全てのクレームが、例えば、これらの事情の評価に基づいて、法的例外を実用的応用へ統合するものとはならない。Alice Corp, Pty, Ltd v. CLS Bank Int'l事件において、最高裁が判示したことは、クレーム限定である”データ処理システム”、”通信コントローラ”、及び”データ蓄積部”は、コンピュータ上で抽象的アイデアを実行するための単なる指示をする汎用コンピュータである、ということである。このような限定は、法的例外を実用的応用への統合を説明するには十分ではなく、したがって、クレーム分析はステップ2Bへ移行しなければならない。
2019 PEGで説明したように、Prong2分析はクレームを全体として考慮する。付加的限定は、記載された法的例外から完全に分離させて、孤立して評価されるべきではない。その代わり、例外が実用的応用へ統合されるか否かを評価する際、分析は、すべてのクレーム限定を考慮にいれるべきであり、その限定が互いに作用し影響を与えるかを考慮すべきである。例えば、Bascom Global Internet Servs, Inc. v. AT&T Mobility LLC事件において、裁判所は、クレームは”フィルタリング”という抽象的アイデアを記載する、と判示した。しかし、裁判所が判示したことは、フィルタによる利益をローカルコンピュータとISPサーバの双方で提供される特定のエンドユーザに対してカスタマイズ可能なフィルタリング特徴により、エンドユーザからは遠隔な特定の位置でフィルタリングツールがインストールされているため、クレームされた発明は技術を改善している、ということである。クレームされた発明が技術を改善するか否かを決定する際、裁判所は、残りの限定を結合してフィルタリング限定を考慮した。
B. コンピュータ技術の改善、又は他の技術や技術分野の改善
クレームが全体として法的例外を実用的応用へ統合するか否かを決定する際に評価する重要な事情は、クレームされた発明がコンピュータや他の技術を改善させるか否かである。裁判所は、この事情に関して厳密なテストを提供しなかった。しかし、MPEP 2106.04(a)及び2106.05(a)は、どのようにこの分析を実行するかの詳細な説明を提供する。簡単に言うと、第1に、明細書を評価して、当業者がクレームされた発明を理解して改善を提供する程度に十分詳細に明細書による開示が行われているかを決定すべきである。明細書は、必ずしも、厳密に改善を明らかにする必要はないが、改善が当業者にとって明白である程度に発明を記述しなければならない。反対に、明細書は厳密に改善を明らかにしているが、証拠不十分(すなわち、当業者にとって明白となるべき必要な詳細がなく改善についての単なる主張)な場合、審査官は、クレームが技術を改善すると決定するべきではない。第2に、明細書が技術における改善を明らかにする場合、クレームを評価して、クレーム自体が開示された改善を映し出すことを保証していなければならない。言い換えると、クレームは、明細書に記述された改善を提供する発明の部品やステップを含む。クレーム自体は、明細書に記述された改善を厳密に記載する必要はない(例えば、”これにより、チャネルの帯域幅を増加させる”)。
2019 PEGにおける改善分析は、これまでのガイドラインを比較して少し異なる。以前のガイドラインでは、ステップ2Aと2Bの双方で、クレームされた発明が従来技術を改善したか否かを考慮した。これに対して、2019 PEGでは、ステップ2Aにおける”改善”分析は、何が良く知られ、ルーチン的で、従来から存在する活動(well-understood, routine, conventional activity)に対する言及なく、コンピュータや他の技術の機能に対する改善を維持するか否かについて、ステップ2Aにおいて決定される。言い換えると、良く知られ、ルーチン的で、従来から存在する活動を超える改善ではないけれども、クレームされた発明が適切に現在の技術を改善することを説明することによって、その発明は法的例外を実用的応用へ統合するかもしれない。
改善に関する事情は、クレームされた発明の技術に拘らず、統合分析に関連する。言い換えると、この事情は、コンピュータで実行される発明、ライフサイエンス分野の発明、若しくは他の技術のであるかどうかに拘らず平等に適用される。例えば、Rapid Litigation Management Ltd. v. CellzDIrect, Incを参照。この判例で、裁判所が判示したことは、肝細胞を保存するクレームされた発明は、自然の発見に基づくものであるけれども、新規で改善された方法で肝細胞を保存することができるため、技術に対する改善があるとして特許適格性がある、とされたものである。とりわけ、裁判所は、発明が技術を改善することを決定する際に、技術の種別を区別することをしなかった。しかし、法的例外自体(例えば、記載された基本的な経済概念)の改善は、技術の改善ではない、ということを留意することが重要である。例えば、Trading Technologies Intl'l v. IBG LLC,事件において、裁判所が判示したことは、クレームは、市場取引を促進させるより多くの情報をもつ市場関係者を単純に提供しており、市場取引に関するビジネスプロセスを改善するが、コンピュータや技術を改善するものではない、ということである。
C.法的例外を適用または使用して、病気や健康状態のために特定の治療や予防を行うこと
2019 PEGは、法的例外を適用または使用して病気や健康状態のために特定の治療や予防を行うことで、クレームが法的例外を実用的応用へ統合することができる事情において、”治療/予防”事情を含んでいる。クレームが記載された法的例外を適用または使用して病気や健康状態のために治療又は予防を行うか否かを決定するために、以下の要因が適切である。
ⅰ.特定の又は一般的な治療又は予防
治療や予防限定は、”特定の”ものでなければならない、すなわち、すべての法的例外を含まないために、特別に識別されたものでなければならない。例えば、β遮断薬の代謝不良に関連する遺伝子型を保有する患者がどうかを識別するために心の中で情報を分析することを記載するクレームを考えよう。このクレームは、2019 PEGのセクションⅠで列挙された抽象的アイデアに関する思考プロセスグループに該当する。クレームは、さらに、”代謝不良を所有するとして識別された患者に対して、通常のβ遮断薬よりも少ない量を投与する”ことが記載されている。この投与ステップは、特定のものであり、思考プロセスを実用的応用へ統合する。反対に、同様の抽象的アイデアと”患者に適切な量の薬を投与する”ことを記載するクレームを考えよう。この投与ステップでは、特定のものではなく、一般的な方法で例外を”適用する”ことを単に指示しているだけである。従って、投与ステップは、思考プロセスを実用的応用へ統合していない。
ⅱ.限定が例外に対して通常の又は意味のない関係以上のものを持っているか否か
治療又は予防限定は、例外に対して通常の又は意味のない関係以上のものを持っていなければならない。例えば、血糖レベルが250㎎/dlを超えた場合とケトアシドーシス(重篤な健康状態)を発症するリスクとの間の自然関係(自然法則)を記載するクレームを考えよう。クレームは、また、”血糖レベルが250㎎/dlを超える患者をインシュリンで治療する”ことも記載する。この投与ステップは、特定のものであり、自然法則を実用的応用へ統合する。一方、同一の自然法則と”血糖レベルが250㎎/dlを超える患者をアスピリンで治療する”こととを記載するクレームを考えよう。糖尿病患者は他の治療理由でアスピリン療法となるかもしれないが、アスピリンは、ケトアシドーシスや糖尿病の治療に対して既知である。このクレームの内容と、高血糖レベルとケトアシドーシスとの間の記載された相関とにおいて、アスピリンはケトアシドーシスを治療し予防しないため、アスピリンの投与は、自然法則への名目的な接続でいかない。したがって、このステップは、例外と意味ある方法として適用したり使用したりしていない。よって、アスピリンを投与するステップは、自然法則を実用的応用へ統合しない。
ⅲ.限定が単に余分な解決活動又は使用分野であるか否か
治療又は予防限定は、法的例外上の意味のある限定を負担しなければならず、余分な解決活動や使用分野にすることはできない。
D. ステップ2A、Prong2における他の事情
上述のセクションⅢ(A)で説明したように、2019 PEGは、既に議論したことを付加して、ステップ2AのProng2における他の事情を記載している。
Ⅳ.特許適格性拒絶に関する一応の証拠(prima facie case)と証拠の役割
一応の証拠についての法的概念は、特許審査の手続的ツールであり、審査官と出願人との間で負担する負荷を割り当てる。
Ⅴ.特許審査官における2019PEGの応用
USPTOは、改訂された特許適格性ガイダンスに対する審査官の高度な理解のために、既に、次のステップに移っており、特許の高品質化への進行中の努力の一部として、審査官として仕事を続けるだろう。
2019年10月25日