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AI "DABUS"が発明した特許の拒絶理由が公開

2020/1/30 弁理士 山下 聡

はじめに

 2020年1月28日、欧州特許庁(EPO)は、AI”DABUS”が発明したとされる2件の出願(EP18275163,  EP18275174)について、拒絶決定の理由(以下、拒絶理由)を公開しました。

→拒絶決定(decision)はこちら。決定の理由(ground for decision)はこちら

 
 
この2件の特許出願の詳細と経緯については、当ホームページのこちらのページで公開しています。

 拒絶理由によりますと、いずれの出願も、

"The Application is refused in accoedance with Article 90(5) since the designation of inventor filed for the appllication does not meet the requirement of Article 81 and Rule 19 EPC.

により拒絶する、つまり、発明者の指定に関する書類(designation of inventor)に発明者が記載されておらず、その欠陥が補充されていないため、2件の特許を拒絶するというものです。

拒絶理由の内容

 欧州特許条約(EPC)の施行規則Rule 19(1)には、発明者の指定に関する書類について、発明者の姓、名、及び宛先を記載することが要求されています。

 EPOは、出願人から提出された発明者が、機械であるDABUS(AIの名前)と記載されており、この規則の要件を満たしていない、と指摘しております。

 その理由として、

ⅰ)自然人の名前に与えられる様々な権利、
ⅱ)EPCの法的フレームワーク、
ⅲ)EPCの立法過程、
ⅳ)他の法的枠組、

等を挙げています。

 すなわち、ⅰ)については、自然人の名前と、”もの”に与える名前とは同等ではなく、前者は、自然人を特定するだけではなく、命名権(例えば、フランス民法では、子供のファーストネームは母親や父親が選択するなど)などの権利を行使することができるが、後者は、名前によって行使できる権利はない、と指摘しています。

 また、ⅱ)については、EPOは、例えば、EPC58条(特許出願をする権利)のように、自然人、法人、または法人と同等の団体に対して、法的フレームワークを提供しており、特許手続において、出願人、発明者以外のものに対しては、法的フレームワークを提供していないこと、を指摘しています。

 ⅲ)については、ミュンヘン外交会議(EPCの前身。特許付与のための欧州システムの設定に関する会議)など、EPCの準備段階では、”発明者”という用語は自然人に対してのみ用いられていること、例えば、EPCのドラフト15条(1)には、”雇用された人”と”互いに独立して発明した複数人”によって発明がされたことが記載されている、ことなどを挙げています。

 そして、ⅳ)については、

・AIシステムや機械には、自然人や法人と比較して法的性質が与えられていないこと(例えば、ロボットに関する欧州民法規則に関する研究(Study on European Civil Law in Robotics:欧州議会が発表したもので、ロボットの民事責任など、ロボットの法的枠組みについてまとめたもの。詳しくはこちら。)の14頁)、

・法人に対する法的性質は、法的フィクション(legal fiction)に基づいて割り当られており、その法的フィクションは立法により生み出され、AIシステムや機械には、このような法的フィクションを産み出す法律がないこと、

・そのため、発明者として与えられる権利など、発明者であることから発生する権利は、AIシステムや機械には与えられていないこと、

などを挙げています。

 さらに、中国や日本、韓国、米国などでも、発明者が自然人であるという基準が採用されていることを挙げています。

コメント

 今般の拒絶は、審査部(Examining Division)ではなく、受付課(Receiving Section)によってなされました。そのため、通常の審査のように、意見書や補正書の提出が求められることはありませんでした。

 EPOは、発明者の指定に関する書類(designation of inventor)の欠陥を修正する機会を出願人に求めても修正しないだろうとの立場にたって、修正する機会を与えずに拒絶決定(decision)を通知しています。

 今後、出願人が行う手続は、拒絶決定に対する審判を請求するか否かです。請求できるのは、拒絶決定の日(2020/1/27)から2カ月以内です。

 EPOによる拒絶決定の理由は、欧州特許条約だけに留まらず、条約立法過程における草案例、他の法令、更に、欧州議会が発表したロボットの法的枠組みに関する研究なども考慮しています。

 出願人は、このようなEPOの見解に反論するだけの意見を持ち合わせているのでしょうか?

 そして、出願人は、拒絶決定に対して、審判を請求するのでしょうか? 注目するところです。

 なお、出願人は、英国知的財産庁(UKIPO)に直接出願した出願(EP18275163と同一内容のGB201816909)について、審判を請求しています(くわしくはこちら(表示されたページの右側にある"Case Notes"を選択))。

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