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CUSTOMEDIA TECHNOLOGIES, LLC, 
v.
DISH NETWORK CORPORATION, DISH NETWORK LLC,

2018-2239, 2019-1000
[CAFC 2020.3.6判決]

~改善された速度と効率性でデータ配信を行う発明が米国特許法101条違反とされた事件~

2020/3/19 弁理士 山下 聡

第1.経緯

 Dish Network CorporationとDish Network LLC(併せて、DISH)は、Customedia Technologies, LLC(以下、Customedia)が保有する2つの米国特許8,719,090(以下、'090特許)と9,053,494(以下、'494特許)について、米国特許商標庁(USPTO)に対し、ビジネス方法特許のための暫定プログラム(CBMレビュー)を請願(petition)しました。

 USPTOの審判部(PTAB)は、CBMレビューを行い、'090特許のクレーム1、'494特許のクレーム1等が米国特許法101条により特許非適格であることに加え、'090特許のクレーム1等が102条により特許可能ではないこと、'090特許のクレーム7が112条により特許可能ではないこと、'090特許のクレーム1等について103条により特許可能ではないことをDISHが立証できなかったこと、を示す最終決定を行いました。

 Customediaは、101条と102条に対するPTABの最終決定に対して上訴し、DISHは、103条に対する最終決定に対して反訴しました。ただし、DISHは、その後、反訴を取り下げました。


 判決文はこちら

判決文の日本語訳はこちら

第2.争点となったクレーム

1. 発明内容

 争点となったのは、'090特許のクレーム1です。

 '090特許の明細書では、放送業者やサービスプロバイダなどが配信する、様々な種別のTV信号やコンテンツデータなどを含むマルチメディアデータを一括管理して、トランザクションサーバを介して、エンドユーザに対して、購入等したコンテンツ等に対応するマルチメディアデータを配信するデータ配信システムが記載されています。

 このうち、'090特許のクレーム1では、マルチメディアデータに含まれる広告データに着目したもので、メモリのある領域を予約しておき、その領域に広告データを記憶させるようにしたものです。このようにすることで、広告データの(配信)速度と効率性とを改善させることができるようです('090特許の特許明細書のコラム30、63~67行目)。

 なお、'090特許と'494特許の2つの明細書は共通内容となっています。

2.クレーム 

 争点となったクレーム1は以下です。

1.  A data delivery system for providing automatic delivery of multimedia data products from one or more multimedia data product providers, the system comprising:

     a remote account transaction server for providing multimedia data products to an end user, at least one of the multimedia data products being specifically identified advertising data; and

     a programmable local receiver unit for interfacing with the remote account transaction server to receive one or more of the multimedia data products and for processing and automatically recording the multimedia data products, said programmable local receiver unit including at least one individually controlled and reserved advertising data storage section adapted specifically for storing the specifically identified advertising data, said at least one advertising data storage section being monitored and controlled by said remote account transaction server and such that said specifically identified advertising data is delivered by said remote account transaction server and stored in said at least one individually controlled and reserved advertisng data storage section.

1.1つ以上のマルチメディアデータ製品プロバイダからのマルチメディアデータ製品の自動配信を提供するデータ配信システムにおいて、

   エンドユーザへマルチメディアデータ製品を提供するリモートアカウントトランザクションサーバであって、前記マルチメディアデータ製品の少なくとも1つは明確に識別された広告データであり、

  前記リモートアカウントトランザクションサーバとインターフェーシングして、1つ以上の前記マルチメディアデータ製品を受信し、前記マルチメディアデータ製品を処理し自動的に記録するプログラム可能なローカル受信部であって、前記プログラム可能なローカル受信部は、前記明確に識別された広告データを蓄積するために特に適合し、個別に制御され予約された、少なくとも1つの広告データ蓄積部を含み、前記少なくとも1つの広告データ蓄積部は、前記リモートアカウントトランザクションサーバによって監視及び制御され、前記明確に識別された広告データが前記リモートアカウントトランザクションサーバによって配信され、前記少なくとも1つの個別に制御され予約された広告データ蓄積部において蓄積されるようになされている。)

3.争点

 '090特許のクレーム1は、特許適格性があるか?                   

第3.判決内容

 PROST主席裁判官、DYK裁判官、及びMOORE裁判官が担当。判決理由はMOORE裁判官。

1.概要

 争点となるクレームは米国特許法101条により特許不適格であり、PTABの最終決定を維持する。そのため、102条に関するPTABの最終決定までは判断しない。

2.詳細

(1)Aliceのステップ1(クレームが法的例外に向けられているか)

 CAFCは、ステップ1において、Enfish判決(Enfish, LLC v. Microsoft Corp (Fed. Cir. 2016))における、

​"We therefore held that the “plain focus of the claims is on an improvement to computer functionality itself, not on economic or other tasks for which a computer is used in its ordinary capacity.” 

​(したがって、当裁判所は、“クレームの明白な焦点は、コンピュータ機能自体の改善であって、コンピュータが通常の能力で用いられる経済的又は他のタスクではない

を引用しながら、

To be a patent-eligible improvement to computer functionality, we have required the claims to be directed to an improvement in the functionality of the computer or network platform itself.”,

コンピュータ機能に対して特許適格性のある改善となるためには、コンピュータ機能やそのネットワークプラットフォームにおける改善へクレームが向けられていることが必要である。

であり、

"We have held that it is not enough, however, to merely improve a fundamental practice or abstract process by invoking a computer merely as a tool."

当裁判所は、コンピュータを単にツールとして実行することで、基本的な実務や抽象的プロセスに対する単なる改善では十分ではない、ということを判示してきた。

であると判示しました。

 すなわち、CAFCは、Aliceのステップ1で、クレームが特許適格性がある、とするためには、基本的実務や抽象的プロセスに対する改善では足りず、クレームがコンピュータ機能やそのネットワークプラットフォームにおける改善へクレームが向けられていることが必要である、と判示しました。

 そして、CAFCは、争点となる'090特許のクレーム1について、

"Customedia argues that by providing a reserved and dedicated section of storage, the claimed invention improves the data delivery system’s ability to store advertising data, transfer data at improved speeds and efficiencies, and prevent system inoperability due to insufficient storage. In short, by dedicating a section of the computer’s memory to advertising data, the claimed invention ensures memory is available for at least some ad-vertising data. This does not, however, improve the functionality of the computer itself. Even if we accept Customedia’s assertions, the claimed invention merely im-proves the abstract concept of delivering targeted advertis-ing using a computer only as a tool. This is not what the Supreme Court meant by improving the functioning of the computer itself nor is it consistent with our precedent ap-plying this concept."

Customediaが主張することは、予約された個別化された蓄積部分を提供することで、クレームされた発明が、広告データを蓄積し、改善された速度と効率性でデータを配信し、不十分な蓄積量によるシステムの動作不能を回避するという、データ配信システムの能力を改善する、ということである。要するに、広告データに対するコンピュータメモリ部を個別化することで、メモリが少なくともいくつかの広告データに適用可能であることを、クレームされた発明が保証する、ということである。しかし、このことは、コンピュータ自体の機能を改善することにはならない。仮に、当裁判所がCustomediaの主張を認容しても、クレームされた発明は、単なるツールとしてコンピュータを用いて、広告を配信するという抽象的概念を改善するだけである。このことは、最高裁がコンピュータ自体の機能を改善することを意味するものでもないし、この概念を適用する判例と一致するものでもない。

"Against this background, we agree with the Board that the claims here are not directed to a patent-eligible im-provement to computer functionality. The claims of the ’090 and ’494 patents do not enable computers to operate more quickly or efficiently, nor do they solve any technological problem. They merely recite reserving memory to ensure storage space is available for at least some advertising data. The specification is silent as to any specific structural or inventive improvements in computer functionality related to this claimed system. See, e.g., ’090 patent at 30:57–67, 3:47–50. The only improvements identified in the specification are generic speed and efficiency improve-ments inherent in applying the use of a computer to any task. Therefore, the claimed invention is at most an improvement to the abstract concept of targeted advertising wherein a computer is merely used as a tool. This is not an improvement in the functioning of the computer itself."

(このような背景に反して、当裁判所は、争点となるクレームがコンピュータ機能に対する特許適格性のある改善に向けられていないという審判部の決定に同意する。'090特許と'494特許のクレームは、コンピュータに対して、より高速に又は効率的に動作させることができず、あらゆる技術的課題を解決することもできない。これらは、蓄積空間を保証するために予約されたメモリが少なくとも広告データに適用可能であることを単に言及しているだけである。明細書には、クレームされたシステムに関連したコンピュータ機能において、明確に構造的な又は発明的な改善に関して何も記載されていない。See, e.g., ’090 patent at 30:57–67, 3:47–50. 明細書に記載された唯一の改善は、あらゆるタスクに対してコンピュータを適用する際に固有の一般的なスピードと効率性の改善である。したがって、クレームされた発明は、コンピュータが単にツールとして使用され、広告という抽象的概念に対する改善である。このことは、コンピュータ自体の機能における改善ではない。)

と判示しました。

 すなわち、CAFCは、争点となるクレームについて、広告データに対してメモリを個別化することで、いくつかの広告データに対して適用可能であることを記載するだけであって、これはコンピュータ機能に対する改善ではないこと、仮に、Customediaが主張する改善された速度と効率性でデータを配信し、データ配信システムの能力を改善することができるとしても、広告を配信するという抽象的概念を改善するだけである、と判示しています。

 そして、CAFCは、争点となるクレームについて、コンピュータに対してより広告に又は効率的に動作させることはできないこと、また、明細書には、構造的な又は発明的な改善は何も記載されていないことから、コンピュータを単にツールとして使用し、広告という抽象的概念に対する改善であって、コンピュータ機能に対する改善ではない、と判示しています。

 

(2)Aliceのステップ2(クレームに法的例外を遥かに超える付加的要素があるか)

 CAFCは、ステップ2について、

At step two, the Board held that the elements of the claims, considered individually and as an ordered combina-tion, fail to recite an inventive concept.
 

ステップ2において、審判部は、個別かつ順番に結合したクレーム要素が発明概念を記載していないことを決定した。当裁判所は、この決定に同意する。

と判示しました。その理由として、

   ” Aside from the abstract idea of delivering targeted advertising, the claims recite only generic computer components, in-cluding a programmable receiver unit, a storage device, a remote server and a processor. See, e.g., ’090 patent at Claim 1. The specification acknowledges that the storage device “may be any storage device for audio/video infor-mation known in the art” and the receiver unit may include “any digital or analog signal receiver and/or transmitter ca-pable of accepting a signal transmitting any kind of digital or broadcast information.” Id. at 15:4–6, 24:26–34. Such generic and functional hardware is insufficient to render eligible claims directed to an abstract idea. Alice, 573 U.S. at 226.

     Customedia argues that the claims are eligible under Alice step two because the use of a programmable receiver to dedicate a section of storage for storing only “specifically identified advertising data” was innovative over prior art approaches. However, the invocation of “already-available computers that are not themselves plausibly asserted to be an advance . . . amounts to a recitation of what is well-un-derstood, routine, and conventional.” SAP, 898 F.3d at 1170. The ’090 and ’494 patent claims’ invocation of a con-ventional receiver is insufficient to supply the required in-ventive concept.


広告を配信する抽象的アイデアは別として、クレームは、プログラム可能な受信部、蓄積部、リモートサーバ、及びプロセッサを含む、汎用コンピュータ部品のみについて記載している。See, e.g., ’090 patent at Claim 1. 明細書で確認できることは、蓄積部が“公知の音声/映像情報用の蓄積部”であり、受信部が“あらゆる種別のデジタル又は放送情報を送信する信号を許容することが可能なアナログ信号受信器及び又は送信器”を含む、ということである。Id. at 15:4–6, 24:26–34. このような汎用的で機能的なハードウェアは、抽象的アイデアに向けられたクレームを特許適格性のあるクレームと判断するには不十分である。Alice, 573 U.S. at 226.

 Customediaが主張することは、“明確に識別された広告データ”のみ蓄積する蓄積部に個別化されたプログラム可能な受信器が従来技術アプローチを超えて革新的であった、ということである。しかし、“それ自身進歩的であると正当に主張されていない既に利用可能なコンピュータの実行は、...良く知られ、慣習的で、かつ従来から存在するものを記載することに等しい”。SAP, 898 F.3d at 1170.  '090特許と'494特許のクレームにおける従来からの受信機の実行は、必要とされる発明概念を示すには不十分である。

 すなわち、CAFCは、クレームに記載された、受信部、蓄積部、リモートサーバ、及びプロセッサは汎用コンピュータ部品であって、明細書からは公知の蓄積部、あらゆる信号に対処可能な受信部について記載しており、このような汎用的で機能的なハードウェアは、抽象的アイデアを特許適格性のあるクレームであると判断するには不十分である、と判示しています。

 以上から、CAFCは、

"Thus, we conclude the Board did not err in holding the claims of the ’090 and ’494 patents ineligible under § 101."

したがって、当裁判所は、'090特許と'494特許が101条により特許非適格であるとの審判部が決定したことは誤りではないと判示する。

と判示しました。

第4.コメント

 Enfish判決(Enfish, LLC v. Microsoft Corp (Fed. Cir. 2016)では、"improvement in computer technology itself or in another technology"が示されることで、Aliceのステップ1(MPEPでは、ステップ2A)をクリアできる(抽象的アイデアに向けられていない)ことが判示されました。

 本判決では、これを踏襲するとともに、Aliceのステップ1をクリアするためには、さらに、抽象的プロセスに対する改善やコンピュータアプリケーションを使用する際のユーザ体験の改善("improving a user’s experience while using a computer application")では足りず、コンピュータ機能やそのネットワークプラットフォームにおける改善へクレームが向けられていることが必要であることを示しました。

 争点となった'090特許のクレーム1は、広告データを、予約されたデータ蓄積部に蓄積されることが記載されております。しかし、予約された領域に広告データが蓄積されるということが記載されているだけのようです。

 広告データをメモリの予約領域に蓄積するというだけで、コンピュータ技術の改善(改善された速度と効率性で広告データ配信する、という技術的改善)を主張することができる(又は認められる)でしょうか?

 例えば、蓄積媒体がハードディスクであれば、ファイルシステムを工夫して利用することで、予約領域に広告データが蓄積されるとか、あるいは、視点を変えて、トランザクションサーバではどのような処理が行われているのか、あるいは、広告データを特定のインタフェースを利用して送信する、などをクレーム1内に表現する必要があったのではないか、と思われます。

 そして、このような技術的な工夫があるからこそ、広告データを確実に蓄積し、ユーザへ送信することが可能になるという「コンピュータ技術の改善」の主張も可能になってくるのではないでしょうか。

 なお、本事件では、出願時のクレームと権利化時のクレームとが大きく異なっていることも特徴です。出願時のクレーム1は、

1.  A data delivery system for providing automatic delivery of multimedia data products from one or more multimedia data product providers, the system comprising:

     a remote account transaction server for providing an end user access to multimedia data products, and for negotiating the acquisition of the multimedia data products from the multimedia data product providers, and

     a programmable local receiver unit for interfacing the end user with the remote account transaction server to select specific multimedia data products for delivery, for interfacing with the multimedia data product providers to receive the specific multimedia data products, and for processing and automatically recording the multimedia data products according to user specified programming options.

(1.  1つ以上のマルチメディアデータ製品プロバイダーからのマルチメディアデータ製品の自動配信を提供するデータ配信システムにおいて、

 マルチメディアデータ製品へのエンドユーザーアクセスを提供し、マルチメディアデータ製品プロバイダーからのマルチメディアデータ製品の取得を交渉するリモートアカウントトランザクションサーバーと、

 エンドユーザをリモートアカウントトランザクションサーバーに接続して配信用の特定のマルチメディアデータ製品を選択し、マルチメディアデータ製品プロバイダーと接続して特定のマルチメディアデータ製品を受信し、ユーザー指定のプログラミングオプションに従ってマルチメディアデータ製品を処理し、自動的に記録するプログラム可能なローカル受信部

 とを備える。)

 出願時のクレームは、多くの種類のマルチディアデータを選択的にユーザへ配信するデータ配信システムについて記載されています。Custimediaは、拒絶理由の際に、マルチメディアデータのうち、広告データに焦点を当ててクレーム補正をしたものと思われます。

 明細書の課題や実施例中の効果が、広告データに特化した内容が記載されるべきところ、明細書全体として、マルチメディアデータ全体とした場合のデータ配信システムにおける課題や効果が記載されており、明細書において、権利化後のクレーム1に対しその課題及び効果との対応関係が今一つはっきりしない内容となってしましました。

 この点、CAFCも、技術的な改善が記載されていない("The specification is silent as to any specific structural or inventive improvements in computer functionality related to this claimed system. See, e.g., ’090 patent at 30:57–67, 3:47–50.")と指摘しています。

 対応策として、発明の主題(又は特徴的な部分)について、単に、予約領域に特定データを記録する、だけでは足りず、どのような技術的な手段により、予約領域に特定データを記録するのか、まで記載しなければならない、ということになりそうです。

 そして、明細書には、メインクレームだけではなく、少なくともクレーム2や3(実際に、'090特許の出願時のクレーム3において広告データについて言及しており、当初から、マルチメディアデータのうち、広告データが重要であることが伺われます。)が補正によりクレーム1に追加されることを予想して、クレーム2や3に特化した技術的な効果を記載すべき、ということになりそうです。

以上 

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