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American Axle & Mfg, Inc., v. Neapco Holdings LLC,
2018-1763
[CAFC 2019.10.3判決]
(機械関連発明が米国特許法101条違反とされたCAFC判決)
~効果重視型(results-oriented)クレームは特許適格性を満たすか~

第1.経緯

 American Axle & Manufacturing, Inc. (“AAM”)は、2015年12月18日、Neapco Holdings LLC and Naepco Drivelines LLC(“Neapco”)が米国特許7,774,911(”'911特許”)を侵害するとして、Delaware州連邦地裁(”地裁”)に特許侵害訴訟を提起しました。

 両当事者は、特許適格性に関するサマリージャッジメントを申立てましたが、地裁は、
Neapcoの申立を認定(AAMの申立を棄却)し、
'911特許は特許適格性がなく無効であると判示しました。その理由は、

・”
the Asserted Claims as a whole are directed to laws of nature: Hooke’s law and friction
damping
”(クレームは全体としてフックの法則と摩擦減衰とに向けられており)(Alice/Mayoテストのステップ1でYes)、

additional steps consist of well-under-stood, routine, conventional activity already
engaged in by the scientific community”(付加的ステップは、科学界で既に行われている、よく知られ、慣習的で、従来から存在する活動から構成されている。)
(Alice/Mayoテストのステップ2でNo)


ということです。


 AAMは控訴しました。

判決本文はこちら

判決文の日本語訳はこちら

第2.争点となったクレーム

1. 発明内容

 ’911特許は、自動車のエンジンの回転力を車輪に伝えるシャフト(プロップシャフト)の中に挿入されたライナーと呼ばれる部品に関する発明です。’911特許の明細書によると、シャフトには、屈曲モード、捩じれモード、シェルモードの3つの異なる種類(モード)の振動が発生し、プロップシャフトの中に挿入されたライナーにより、屈曲モードとシェルモードの2つの振動を同時に減衰させることができるようです。

2.クレーム 

 争点となったのは、クレーム1及び22です。

1.  A method for manufacturing a shaft assembly of a driveline system, the driveline system
further including a first driveline component and a second driveline component, the shaft
assembly being adapted to transmit torque between the first driveline component and the
second driveline component, the method comprising:

providing a hollow shaft member;

tuning at least one liner to attenuate at least two types of vibration transmitted through the
haft member; and

positioning the at least one liner within the shaft member such that the at least one liner is
configured to damp shell mode vibrations in the shaft member by an amount that is greater
than or equal to about 2%, and the at least one liner is also configured to damp bending
mode vibrations in the shaft member, the at least one liner being tuned to within about
±20% of a bending mode natural frequency of the shaft assembly as installed in the
driveline system.

1.ドライブラインシステムにおけるシャフト部品の製造方法であって、前記ドライブシステムは、さらに、第1のドライブライン部品と第2のドライブライン部品を含み、前記シャフト部品は、前記第1のドライブライン部品と前記第2のドライブライン部品との間でトルクを伝達するために適応され、前記方法は、
 
中空シャフト部材を提供し、
 
少なくとも1つのライナーを調整して、前記シャフト部材を介して伝達される少なくとも2つの種類の振動を減衰させ、
 
前記少なくとも1つのライナーが前記シャフト部材のシェルモード振動を、約2%以上となる量で弱めるように、前記シャフト部材内において前記少なくとも1つのライナーを位置決めし、前記少なくとも1つのライナーは、前記ドライブシステムに取り付けられた前記シャフト部材の屈曲モードにおける自然振動数のうち、約±20%の範囲内で調整される、
 
ことを特徴とする製造方法。
                     ***

22.  A method for manufacturing a shaft assembly of a driveline system, the driveline system further including a first driveline component and a second driveline component, the shaft assembly being adapted to transmit torque between the first driveline component and the second driveline component, the method comprising:

providing a hollow shaft member;

tuning a mass and a stiffness of at least one liner, and

inserting the at least one liner into the shaft member;

wherein the at least one liner is a tuned resistive absorber for attenuating shell mode
vibrations and wherein the at least one liner is a tuned reactive absorber for attenuating
bending mode vibrations.

22.ドライブラインシステムにおけるシャフト部品の製造方法であって、前記ドライブシステムは、さらに、第1のドライブライン部品と第2のドライブライン部品を含み、前記シャフト部品は、前記第1のドライブライン部品と前記第2のドライブライン部品との間でトルクを伝達するために適応され、前記方法は、
 中空シャフト部材を提供し、
 少なくとも1つのライナーにおける質量と剛度とを調整し、
 前記少なくとも1つのライナーを前記シャフト部材に挿入し、
 前記少なくとも1つのライナーは、シェルモード振動を減衰させるための調整された抵抗吸収器であり、前記少なくとも1つのライナーは、屈曲モード振動を減衰させるための調整された反応吸収器であることを特徴とする製造方法。

 争点は、機械発明でありながら、物理的構造を特定しない効果重視型(results-oriented)のクレーム(とくにクレーム1)は特許適格性があるか?ということになりそうです。

第3.判決内容

 (担当DYK裁判官、MOORE裁判官、及びTARNTO裁判官。判決理由はDYK裁判官。

1.概要

 CAFCは、地裁の判決を支持し、'911の争点となったクレームは特許不適格な発明の主題に向けられている、と判示しました。

2.詳細

(1)Alice/Mayoテストの第1ステップ(クレームが法的例外に向けられているか)

 CAFCは、

To determine what the claims are “directed to” at step one, we look to the “focus of the
claimed advance.” See, e.g., Trading Techs Int’l, Inc. v. IBG LLC, 921 F.3d 1378, 1384 (Fed. Cir. 2019)

​(
クレームが第1ステップで何に“向けられている”かを決定するために、“クレームされた進歩の焦点(focus of the claimed advance)”に注目する。

とした上で、

The claims are directed to tuning liners i.e., “control-ling a mass and stiffness of at least one liner to configure the liner to match the relevant frequency or frequencies.””,
クレームは、ライナーを調整することに向けられている-すなわち、“少なくとも1つのライナーの質量と剛性を制御して、適切な振動数又は振動に一致させるようすること”である。

But, the claims’ general instruction to tune a liner amounts to no more than a directive to
use one’s knowledge of Hooke’s law, and possibly other natural laws, to engage in an ad hoc
trial-and-error process of changing the characteristics of a liner until a desired result is
achieved.
”,
しかし、ライナーを調整するというクレームの一般的な指示は、所望の結果を得るまでライナーの特徴を変更する特別な試行錯誤プロセスに携わるために、フックの法則と他の自然法則との知識を用いることに向けられていることとほとんど同じである。

Like the claims in Flook, the claims of the ’911 patent are directed to the utilization of a
natural law (here, Hooke’s law and possibly other natural laws) in a particular context.

Flook事件におけるクレームと同様に、'911特許のクレームは、特定の文脈において自然法則(ここでは、フックの法則と他の自然法則)の利用に向けられている。

と判示しました。

 すなわち、クレームは、ライナーを調整することに向けられているが、フックの法則(対照物の質量及び又は剛度と、対象物が変動(振動)するときの振動数との数学的関係を表す)と他の自然法則とを利用してクレームに記載する所望の結果を得るようにしており、したがって、クレームは、フックの法則と他の自然法則の利用に向けられている、と判示しました。

 さらに、CAFCは、

What is missing is any physical structure or steps for achieving the claimed result of
damping two different types of vibrations. The focus of the claimed advance here is simply
the concept of achieving that result, by whatever structures or steps happen to work.

2つの異なる種別の振動を減衰させるクレームされた結果を達成するための物理的な構造や方法が示されていない。争点となるクレームされた進歩に関する焦点は、どのような構造やステップが動いたとしても、その結果を達成する概念である

と判示しました。すなわち、クレームが”向けられている”ものは何かを考えるときには、クレームの物理的な構造や方法を考えるべきである、と判示しています。

 そして、CAFCは、

The dissent suggests that the failure of the claims to designate how to achieve the desired
result is exclusively an issue of enablement.

反対意見で示唆されたことは、所望の結果をどのように達成するかを記載するクレームが示されていないことは、完全に実施可能要件の問題である、ということである。

Enablement is concerned with whether the “the specification of a patent… teach[es] those skilled in the art how to make and use the full scope of the claimed invention.” In re Wright,
999 F.2d 1557, 1561 (Fed. Cir. 1993). Section 101 is concerned with whether the claims at
issue recite a natural law, not whether the specification has adequately described how to
make and use the concretely claimed structures and steps.

実施可能要件は、“特許明細書が...クレームされた発明の全範囲をどのように作り、使用するかを当業者に教示している”か否かに関するものである。101条は、争点となるクレームが自然法則を記載しているか否かに関してであって、クレームされた構造とステップを具体的にどのように作り使用するかを適切に記述しているか否かではない。)、

Moreover, even if, as the dissent says, the specification gives one adequately concrete
embodiment, which we need not decide, that is not enough: O’Reilly established long ago
that an inadequately concrete claim is not saved from ineligibility by the presence of
adequate concrete recitations in the specification or in other claims.

さらに、反対意見でも示されるように、本法廷が決定する必要がない、1つの適切で具体的な実施例が明細書で示されていても、それは十分ではない:何年も前にO’Reilly事件で示されたたことは、明細書や他のクレームに適切で具体的な記述の存在によって、適切ではない具体的なクレームは特許適格性からは救われない、ということである。

と判示しました。

 すなわち、所望の結果をどのように達成させるのかがクレームに示されていないことは、102条(a)の実施可能要件の問題であるとの意見があることを示しながら、101条の特許適格性と102条(a)の実施可能要件とでは異なる機能を果たしていることを示した上で、(所望の結果を得る物理的な構成が示されていない)適切ではないクレームには特許適格性がない、と判示しました。

(2)Alice/Mayoテストの第2ステップ(クレームに法的例外を遥かに超える付加的要素があるか)

 CAFCは、第2のステップについて、

As to Mayo/Alice step 2, nothing in the claims qualifies as an “inventive concept” to
transform the claims into patent eligible matter.

Mayo/Aliceのステップ2に関し、クレーム中に、クレームを特許適格性のある主題に変換する“発明概念”として適切なものは何もない。

と判示しました。その理由として、

AAM admits that it was well known “in the automotive industry [to] test for natural
frequencies and damping of propshafts by performing experimental modal analysis.” AAM
Op. Br. 8. As explained above, this direction to engage in a conventional, unbounded
trial-and-error process does not make a patent eligible invention, even if the desired result
to which that process is directed would be new and unconventional.
”、
AAMが認定したことは、“実験モーダル分析を行うことで、自然周波数とプロップシャフトの減衰とをテストすることは、自動車産業において”良く知られたことである、ということである。AAM Op. Br. 8. 上述したように、従来から存在する無限の試行錯誤プロセスを行うこの方向性は、プロセスが向けられている所望の結果が新規で従来から存在するものではないとしても、特許を適格性のある発明にすることはない。

Nor does the direction in claim 1 to “position” the liner within the propshaft add an
inventive concept. Under the claim language itself, and as reaffirmed by the district court’s
now-undisputed construction, positioning is not part of tuning. And even if it were, the
specification makes clear that it was well known to position dampers in the propshaft so as
to maximize vibration damping. See, e.g., ’911 patent, col. 1, ll. 57–60.

プロップシャフト内のライナーの“位置”に対するクレームの方向性は、発明概念を付加しない。クレーム用語において、そして、地裁の明白なクレーム解釈によって再確認されるように、位置することは、調整の一部ではない。そして、仮にそうであったとしても、明細書が明確にしたことは、振動減衰を最大化させるために、プロップシャフトにダンパーを位置決めすることは既知である、ということである。See, e.g., ’911 patent, col. 1, ll. 57–60.

と判示しました。

第4.コメント

 米国特許法101条関連では、本年度、最も注目される判決例になるものと思われます。

 本判例によって、機械関連発明において、その物理的特徴を構造で特定することなく、効果で特定する効果重視型(results-oriented)のクレームは、基本的には、特許適格性なし(Ineligible)と判断されることになりそうです。

 CAFCは、争点となるクレームについて、物理的な構造で特定されておらず、フックの法則と他の自然法則とを利用した自然法則に向けられている、と判断しているようです。しかし、クレームが物理的な構造で特定されているか否かの判断は、判決文にあるように、102条(a)の実施可能要件の問題と思われます。しかも、CAFCは、特許適格性と実施可能要件との違いを示しておきながら、クレームが不適切であるとの理由だけで、特許適格性を否定しているようです。そして、この点を、Alice/Mayoテストの第1ステップで判断しているのか否かも釈然としません。

 Alice/Mayoテストの第1ステップは、Enfish事件(Enfish, LLC v. Microsoft Corp., 822 F.3d
1327 (Fed. Cir. 2016)
)で示された規範、すなわち、”improvement in technology"があるか否かにより考慮されるべきと考えられます。Enfish事件を担当した、 MOORE裁判官とTARNTO裁判官が本事件も担当したのですから尚更です。

 このMOORE裁判官は、本判決に対して、反対意見を提示しました。主な主張点は、

・プロップシャフト内にライナーが挿入されている、という物理的特徴がクレームで示されていること、

・多数意見における従来技術の認識が間違っており、明細書の記載と初期のAAM側の証言とから、屈曲モード振動を減衰させるために、ライナーを用いることは、従来行われていなかったこと、

・101条の門番機能(gate-keeping function)を(実施可能要件まで)広げるべきではないこと

です。

 しかし、プロップシャフトにライナーが挿入されている構造のみによって、Alice/Mayoテストの第1ステップをクリアすることができるのでしょうか? 反対意見についても疑問が残ります。

 争点となるクレームに関し、「調整する」「位置決めする」と記載されておりますが、機械関連の発明でありますから、どのように「調整する」のか、どの位置に「位置決めする」のかを明確に記載することができたはずです。

 なお、'911特許の明細書には、ライナーの具体的特徴やサイズなどが、図面や実施例に記載されておりますが、どのような特徴やサイズなら「屈曲モードにおける自然振動数のうち、約±20%の範囲内」となるのかは、実施例には明確には記載されていないようです。この辺りは、実施可能要件で判断されることになるのでしょう。

 今後、ソフトウェア関連発明で、効果重視型のクレームは、特許適格性が認められなくなるのでしょうか? 判例の積み重ねが期待されます。 

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