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AIが発明者!?
~AI"DABUS"が発明した特許の審査状況について~

2020/1/14 弁理士 山下 聡

はじめに

 ”AIが発明した特許、EPO(European Patent Office:欧州特許庁)より拒絶される”

 EPOは、2019年12月20日、AIが発明したとされる2件の特許出願(EP18275163, EP18275174)について、

The application are refused in accordance with Article 90(5) EPC since the designations of inventor filed for each of the applications do not meet the requirement of Article 81 and Rule 19 EPC.

と発表しました(詳細はこちら(左上の"Load all pages"をクリックすると全文見れます))。

 すなわち、2件の特許出願は、”発明者の指定”(designation of an inventor)に”発明者”が記載されておらず(欧州特許条約81条、規則19)、その記載について欠陥が補充されていないため、拒絶する(同条約90条(5))、ということです。

 AIが発明する-。AIはそんなことはできるのでしょうか? 真偽のほどはわかりません。

 しかし、AIが発明したとされる2件の特許出願について、EPOと英国知的財産庁(UKIPO)において、実際に審査が行われました。審査の過程において、どのような経緯で拒絶されたのかを考えることは、AIに関する発明の特許性を含めて非常に有用と考えます。

 AIが発明したものは特許になるのでしょうか? そもそも、AIは発明者になれるのでしょうか? 審査の経過を以下にまとめました。

審査経過

(1)出願内容

 2件の特許は、英国サリー大学のRyan Abbott教授らによって、2018年10月17日と2018年11月7日に、EPOへ出願されました。また、同一内容の2件の特許が、同一出願日にUKIPOへ出願されました。

 EPOへの出願には英国を指定しているにも拘らず、UKIPOへ単独に出願したのは、真偽はわかりませんが、英国のEU離脱を考慮したのかもしれません。

 EP18275163は、食品を包装する包装容器(food container)に関する発明で、その外形が凹凸を有するフラクタル形状(一部が全体の自己相似状となっている形状)となっているものです。このような形状とすることで、隣の包装容器のフラクタル形状となった外形と強固に密着させることができ、別途、ひもなどを用意することなく、包装容器どうしを結びつけることができる、という効果を得ることができます。

 他方、EP18275174は、注意を引くための装置及び方法に関する発明で、周波数が4kHz、フラクタル次元が1/2のパルス列を入力信号として入力し、入力信号を制御して光源から発光させるようにすることで、その光(neural flame)を識別可能な信号ビーコンとして機能させるようにしたものです。このような光を人間に与えることで、TRN(thalamic recicular nucleus:視床網様核)(視床に集められた感覚や聴覚などの信号を皮質の各部に伝える機能を持つ)による検出が容易になる等、従来にはない効果を得ることができます。

 2件の発明は、”フラクタル”が出てくる点で共通しますが、内容を含めて、全く別の発明と考えてよさそうです。

 なお、EPOへ出願したものと同一内容の2件の特許が、2019年7月29日に米国特許庁、2019年10月31日にイスラエル特許庁へ、それぞれ出願されております(詳細はこちら)。いずれも、現在のところ、各特許庁からの応答はありません。

 EPOにおける2件の審査経過を以下の表にまとめました。

EP 18275163
2018.10.17 出願日
2018.11.5 EPOによる発明者の指定に関する欠陥通知
2019.4.25 サーチレポート
2019.7.24 発明者の指定に関する書類提出
2019.7.26 クレーム補正書、明細書補正書提出
2019.8.2 発明者の指定に関する書類提出
2019.9.13 口頭審理召喚通知
2019.11.6 公開公報(EP 3564144 A1)公開
2019.11.25 口頭審理
2019.12.20 口頭審理議事録公開
EP 18275174
2018.11.7 出願日
2018.12.17 EPOによる発明者の指定に関する欠陥通知
2019.4.23 サーチレポート
2019.7.24 発明者の指定に関する書類提出
2019.7.30 クレーム補正書、明細書補正書提出
2019.8.2 発明者の指定に関する書類提出
2019.9.13 口頭審理召喚通知
2019.11.6 公開公報(EP 3563896 A1)公開
2019.11.25 口頭審理
2019.12.20 口頭審理議事録公開

(2)EPOにおける審査経過

 2件の特許出願の審査経過において、

 ①発明者の指定(designation of inventor)、

 ②サーチレポートの内容、及び

 ③口頭審理の議事録

について、着目してみました。

 ① 発明者の指定

 欧州特許規則19(1)には、願書に”発明者”を記載するか、出願人が発明者ではない場合、別途、発明者の指定、という書類を願書に添付して出願することが規定されています。

 2件の出願は、出願人が"Thaler, Stephen L"で、発明者がAIです。そのため、2件の出願ともに、発明者の指定、という書類を出願時に願書に添付しなければなりません。

 しかし、出願人は、出願時、発明者の指定に関する書類を願書に添付しませんでした。

 そのため、EPOは、欠陥通知として、発明者の指定の書類の提出を出願人に求めています。出願人は、出願日から約半年後、この書類を提出しました(詳しくは、こちらこちら

 この書類には、

 ”DABUS-The invention was autonomouly generated by an artificial intelligence"

と記載されています。ここで、初めて、AIが発明者であることが明らかにされました。

 細かい内容ですが、この書類には、特許を受ける権利(the right to the European patent)について、出願人がどのようにして発明者から獲得したのかをチェックする項目があります。ここでは、"as employe(s)"にチェックされていました。

 ここがチェックされる、ということは、出願人である”人間”と、発明者であるAIとで、雇用契約が交わされ、使用者と従業員との関係から、出願人(=使用者)は発明者(=従業員)から特許を受ける権利を獲得した、ということを表しています。

 果たして、意思を持たないAIが人間と契約を結ぶことができるのでしょうか? ましてや、出願人とAIとの関係が、雇用関係にある、などあり得ることなのでしょうか?

 そのためか、出願人は、2件の出願とも、その約1週間後に、再度、発明者の指定に関する書類をEPOへ提出しております。特許を受ける権利に関する項目は、"as successor(s) in titile"へのチェックに変更されました。

 すなわち、特許を受ける権利が、発明者から出願人へ権利承継、という形で承継されて、出願人が特許を受ける権利を獲得した、ことを表しています。

 ここでも、人間ではないAIに、特許を受ける権利が発生するのか、という疑問が出てきます。

 なお、欧州特許規則19(2)によると、EPOは、発明者の指定の正確性については確認しない、ということになっています。欧州各国によって、特許を受ける権利の性質が異なるため、その正確性は各国によって判断される、ということになります。

  ② サーチレポートの内容

 2件の特許出願のサーチレポートは、通常の出願と同様に、純粋に発明として特許性があるか、という観点から審査がなされています(くわしくは、こちらこちら)。

 いずれも、新規性や進歩性がないことなどが指摘されています。

 なお、EP18275163のサーチレポートでは、従属クレームであるクレーム13に対しては特許性が認められています。

 他方、サーチレポートが発行された後、発明者の指定に関する書類が提出されたため、発明者に関する方式審査(欧州特許条約90条(3)(5))については、サーチレポート作成時点では、審査できなかった可能性があります。

 ③ 口頭審理議事録

 口頭審理は、2件の出願が併合して行われました。そのため、口頭審理議事録は、2件の出願ともに同一内容です(くわしくは、こちら)。

 口頭審理は非公開で行われました。議事録に記載された内容をまとめると、以下になります。

・出願人の代理人(以下、「代理人」)が主張したことは、発明者の指定に関する書類が提出されており、2件の出願公開公報に記載された、”The designation of inventor has not yet been filed"は誤表記である、ということである。口頭審理の議長(以下、「議長」)は、公報に使用される技術的システムの設定の結果としての表記であると説明した。

・代理人は、出願公開公報に記載された、”The designation of inventor does not meet the requirement laid down in Article 81 and Rule 19 EPC"との表記は、欧州特許条約113条に規定された自己の意見を表明する権利を考慮することなくEPOが決定を下したことを示しているように見える、と主張した。議長は、まだ決定をしておらず、この口頭審理が出願人にその議論の機会を与えるものである、ことを強調した。

・代理人は、UKIPOとEPOにより、EP18275163の少なくとも1つのクレームについて特許可能であることが示され、2つの出願の特許可能性が認められた、ことを主張した。

・代理人は、出願人がこれらすべての発明に関与しているわけではないことを主張した。代理人がEPO受付部に確認したことは、口頭審理では法的問題に焦点が当てられ、発明者の要件そのものには焦点が当てられないだろう、ということである。議長は、代理人の理解を確認し、EPOは発明者の指定の正確性を確認しない、ことを指摘した。

・代理人が繰返し主張したことは、この議論で2つの主要な点は、AIシステムを発明者として認めることは、真の発明者を出願人に示すことができること、AIシステムを発明者として認めないことは、AIによってなされた発明を、欧州特許条約52条-57条に反して、特許可能性から除外することになること、である。

・とくに、代理人が主張したことは、欧州特許条約では、発明者が人間でなければならないことについて言及がない、ということである。出願人は実際の発明者を特定する義務があり、公衆には発明者が誰であるのかを知る人格権がある。この点に関し、代理人が言及したことは、判例 J 1/10(?)に対してであり、AIによってなされた発明を含む、発明の開示のインセンティブを与える、特許システムの原理に対してである。

・代理人は、AIシステムが発明者であるべきか否かに関する判例がないことを主張した。条約の準備作業からの解釈(The travaux Preparatories)は、発明者が自然人であり、AIが発明者として認識されることができるか否かについて、若しくは、特許が非人間を否定するか否かについては何も言及されていない、というで仮定のみに基づいている。

・代理人は、AIシステムには人格権や所有権がないけれども、同様のことが特定のカテゴリの人々にて適用されている、ことを主張した。代理人によると、発明者として記載される権利をこれらの人々に対して拒否する権利はないだろう、ということである。同様のことがAIに対して適用されるべきである。

・現在の形式、すなわち、発明者がAIシステムであることを示す、発明者の指定を認めないことの法的効果は、出願を拒絶することであろう。しかし、代理人によると、欧州特許条約は、AIシステムによってなされた発明の特許化を禁止すること何も規定されていない。発明者を指定することは実質的な要求ではなく、AI発明の特許を否定することは、条約の準備作業からの解釈の意図に反し、制裁を課すべきことになるだろう。

・議長は、その後、一旦、口頭審理を中断し、口頭審理を再開した後、2つの特許出願について、以下の決定を下した。

本出願は、発明者の指定が、いずれも、欧州特許条約81条と規則19の要件を満たしていないため、欧州特許条約90条(5)により拒絶されるべきものである。

・代理人は、口頭審理の議事録と同様に、いずれ、全ての拒絶理由を受け取るだろう、そして、決定に対する審判を請求する出願人の権利について伝えた。

・議長は、出願人からの質問に対して、各特許出願について、別々に決定が発行されるであろう、と述べた。

 議事録では、出願人がAIの発明性についてEPOに主張している点が伺えます。また、出願人は(拒絶査定不服)審判を請求することも示唆しております。

 今後は、上記決定による拒絶理由が出願人へ通知されることになります。果たして、出願人はEPOに審判を請求するのでしょうか?

(3)UKIPOにおける審査経過

 UKIPOの審査経過は、一部公開されていない部分もあるようです。公開されている範囲で、審査経過を表にまとめました(詳細は、こちらこちら)。

 

GB 201816909(対応EP18275163)

2018.10.17 出願日
2019.3.28 サーチレポート発行
2019.12.4 特許庁長官による決定
2019.12.18 決定に対する審判を特許裁判所に請求
2019.12.25 公開公報(GB2574909)発行

 

GB 201818161 (対応EP18275174)

2018.11.7 出願日
2019.4.30 サーチレポート発行
2019.6.13 クレーム補正書、明細書補正書提出
2019.7.23 拒絶理由通知
2019.7.26 クレーム補正書、明細書補正書提出
2019.9.6 拒絶理由通知
2019.9.23 明細書補正書提出
2019.12.4 特許庁長官による決定
2020.1.1 公開公報(GB2575131)発行

 

 サーチレポートや拒絶理由通知を見ると、こちらも、通常の出願と同様に、純粋に特許性の判断が行われているようです。

 しかし、2019年12月4日、UKIPO長官は、DABUSは、英国特許法7条と13条に規定された「人」ではなく、発明者として考慮することができないことを決定しました。

 出願人は、この決定に対して、GB201816909については、特許裁判所に審判を請求した模様です。その一方、UKIPOは、2件の特許出願を取り下げるべきであることも指摘しています(くわしくはこちら)。

さいごに

 AIが発明者である2件の特許出願について、EPOとUKIPOは、一応の審査を行いました。いずれも、AIは発明者として認められないことを決定しました。AIは、自然人ではないのですから、あたりまえと言えばそうなのかもしれません。

 出願人は、EPOに出願した2件の特許出願について、審判で争うことを示唆しています。また、出願人は、UKIPOに出願した1件の特許出願について、英国特許裁判所に審判を請求しました。上級審でどのような結果となるのか、注目されるところです。

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